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一人歩きしてしまった病名 [救急医療]

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紹介患者を引き受けるときや当直帯で患者の申し送りをするときなど、「***の患者です」と情報伝達していくことは、業務の日常である。しかしながら、***のところが具体的な病名であれば、情報の受け手のほうは、しばしば、視野狭窄に陥ってしまう。 情報の送り手のほうは、受け手が視野狭窄に陥らないような情報提供を心がける必要があるし、情報の受け手のほうは、視野狭窄に陥らないように、自分自身の意識に注意を払う必要がある。相手を視野狭窄に落としいれない情報の送り方は、病名はなく症候名のほうがいいと思う。どうしても病名を書きたければ、その症候名の後に、自分の論理で導いた仮診断という形で書くほうがいいだろうと思う。

3月にエントリーした脳梗塞というふれこみでも同じようなことを述べてはいるが、今回も別の事例を紹介する。

私がよく勉強させてもらっているmedtoolzさんのサイトの「知識化」というところは大変示唆に富む内容だ。
こういうわけで、最近の日常では、「救急外来で下手な病名はつけるな」と研修医たちに、やかましく言うことが多い。

症例を提示する。

21歳男性  熱中症(疑い)で開業医より時間外外来に紹介

ある夏の暑い日の休日のことである。夕方16時ごろ、開業医より紹介の患者がやってきた。紹介状の内容を以下に示す。

○○病院、時間外外来(内科)担当医殿

ラグビーの試合中、発汗多量意識がやや混濁したということで来られました。血圧100/46 脈40。まあまあ元気ですが、昨日のことはあまり覚えておらず、15時頃、頭痛の訴えがありました。当院で、採血(CBCのみ)を行いましたところ、赤血球550万、ヘモグロビン16.3で脱水が疑われます。 状況から、熱中症を疑い、生理食塩水500mlの点滴を行いました。場合によっては、腎不全への進行も懸念されますので、貴院へ紹介させていただきました。何卒よろしくお願い申し上げます。

当院は17時で当直医が交代であった。この患者の診察開始時間は16:35であった。この紹介状を受け取った最初の医師は、『熱中症疑い、紹介状参照』とのみカルテに記載した。そして一通りの検査をオーダした。 当然、この患者をメインで診るのは、引継ぎ後の医師であろうと思いがあったことであろう。

17時に患者が引き継がれた。

熱中症の人がいるよ。採血出してあるから、あとよろしく」

軽い引継ぎが行われた。

引継ぎを受けた医師は、紹介状にさっと目を通して、腎機能低下を心配しての紹介だから、採血が問題なければ、帰宅でいいだろうと考えて、採血結果を見届けた。 腎機能に異常はなかった。

「熱中症でいいと思います。幸い腎機能に異常はありませんでした。帰宅でいいです。」と説明した。
紹介もとの開業医へも、「#熱中症(腎機能異常なし) と書いた旨の返書を作成した。

次の日、患者は内科外来を再来した。
家族が心配してつれてきたのだ。
「意識がぼうとしてるし、帰宅後も頭痛をいうんですよ・・・・」

内科担当医は、速攻でCTを取った。脳出血だった・・・・・・・

脳外科へ緊急入院となった。 脳動静脈奇形(AVM)からの出血であることが後日の検査で確定された。

熱中症という触れ込みの患者が脳出血とは・・・・・・

典型的な病名の一人歩きのケースである。 おそらく、第一報の入れ方を、#1 意識やや混濁、#2 発汗多量 #3 頭痛 とだけ書いてよろしくという送り方をしていれば、帰宅ささせる前にCTで診断をつけてあげることができたのかなあと私は思った。(もちろん私は、後出しじゃんけん的になんでも言える立場からこの症例を見ているので、自分が当事者であった場合は、自分がどう立ち振る舞えたかは自分でもわからないが)

本日の教訓 
病名の一人歩きに気をつけろ!

 コメント一覧
先生、脳外科シリーズが続きますね。今回もまた教育的な症例呈示ありがとうございます。CTを見るとAVMを疑うような所見ですが、最初にラグビーの試合中脱水があってとなると初日のように見過ごすことあるんでしょうね。

幸いだったのはこの患者さんが同じ病院に翌日来てくれたこと。それからAVMの場合、再出血して致命的となる確率が脳動脈瘤破裂のくも膜下出血に比べて小さいことです。
他の病院に行っていたらトラブルの元だったでしょう。

いや~最初の病名信じちゃいけないですね。
written by Tai-chan / 2007.05.13 21:51
いやー、厳しいですわ、これ。
私は基本的に、人がつけた病名は信じないんですが。
おそらく、熱中症だと思っちゃいますよ、これ多分。

written by Dr. I / 2007.05.14 00:03
若い人の運動→脱水→腎不全というのは、むかし、研修医のころのバイト先で一回だけ経験したことがあります。
不穏・見当識障害が強く、脳神経症状確認したくても、力強いし、大変でした。
エントリーの症例の場合、anisocoriaとか、脳神経症状はなかったのかな?
written by moto / 2007.05.14 11:51
このCT1スライスから判断すると、脳神経症状や瞳孔不同は出にくいでしょう。頭蓋内圧亢進症状、意識障害だけのように推測します。
専門家としては治療にも興味がありますが。
written by Tai-chan / 2007.05.14 15:36
Tai-chan様、ご教示ありがとうございます。
脳室内への出血のようです。量はどうなんでしょう?翌日の写真ですから、止血はしているだろうし、治療については、血腫塊を取り除く手術のリスクとベネフィットをどう考えるか?ということでしょうか?
脳外科まったくの素人で、へんなこと書いてたらごめんなさい。
中央はやや偏移しているようですね。
発症機序としては、脱水による血管内圧の急変にAVM部が耐えられなかったのでしょうか?
幸い?脱水気味だったので、出血も少なく凝固も早かった?
もしも、当日のCTで出血みつかっていたら、腎不全きたさないように尿量注意してみながら、脱水の補正も急ぎすぎないほうがいいのかな?
いろいろ考えさせられます。
written by moto / 2007.05.14 18:24
Tai-chan先生、I先生、moto先生

いつもありがとうございます。たしかにこの症例では、瞳孔不同などの脳神経症状はなかったように記憶しております。

熱中症だと思えてしまいますが、キーワードして頭痛をproblemに拾い上げれるかどうかがCTをとりに行くかどうかの最大の鍵となると思います。診療の最初の主訴の立て方が重要かと思います。
written by なんちゃって救急医 / 2007.05.14 22:15
う~~ん・・・。よっぼど激しい頭痛でない限り、頭痛があっても見逃してしまうかも・・・。脱水->硬膜牽引性頭痛は病態生理的におかしくないですしね・・・。
written by 僻地外科医 / 2007.05.14 22:59
この症例は私も熱中症だと思い込んでしまいます。怖いですね。
今までいつも疑い病名を書いて紹介していました。今後は症状だけ書くようにします。気付かせて頂いてありがとうございます。
written by 春野ことり / 2007.05.14 23:00
自分の専門領域では,転倒で右橈骨遠位端骨折ですと紹介が来て,確かに折れてるんだけど肘もなんか怪しい⇒よくよく診てみると中心性脊損なんて事もありました.
紹介状の病名って確かに(面倒だから)信じたくなりがちですよね^^;注意していこうと思います.
written by アルよし / 2007.05.14 23:23
Moto先生のコメントに少しだけ。
血腫を取るということはしません。フォローしてCT上脳室の拡大、頭蓋内圧亢進症状、意識障害が悪化すれば脳室ドレナージでしばらく経過をみるでしょう。ドレナージが要らない場合もあります。

治療と言ったのはAVMに対して、開頭AVM摘出かガンマーナイフか?術前にナイダス塞栓術を組み合わせるか?という意味です。脱線してすみません。

この場合、最初からCTを撮りにいくかどうか?点滴して経過をみて、点滴終了後頭痛を訴えてボーっとした状態が続いていればCTを私は考えるでしょうが、最初の診察でCTを撮ろうという医師はこの症例ではそういないと思います。
written by Tai-chan / 2007.05.15 03:11
皆様、コメントありがとうございます。

ご意見を伺っていると、自分も当事者だったら、どうかなあと思います。・・・
written by なんちゃって救急医 / 2007.05.15 22:17
Tai-chan様

コメント、トラックバックありがとうございます。
アメリカと日本ではずいぶんと違うですね。

いきなり弁護士っても、ちょっと引きますねえ 私は。

written by なんちゃって救急医 / 2007.05.16 23:33

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危険な頭痛.迷医の診断 (マイアミの青い空)
http://blog.m3.com/Neurointervention/20070410/1

軽症頭部外傷患者への即時CT検査と経過観察の比較 (産科医療のこれから)
http://blog.m3.com/OB_Gyne/20070505/_CT_

 


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