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入院!と強く希望する家族 [救急医療]

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高齢化社会、核家族化、医療費抑制政策・・・・。医療、介護・福祉のグレーゾーンの狭間で、救急の現場は悩ましい判断を迫られることがある。純粋に医学的判断だけでは、現場で起きることをなかなか解決できないこともある。

よくあるケースに、どちらかというと家族の介護の問題を急性期病院に「入院希望」という形で、突きつけてくるケースだ。 あまりにこれを最初から私たち医療者に突きつけてくると、診療を前にして、すでに「負」の先入観が芽生えてしまうので、診療にも支障をきたすかもしれない。診察前に入院希望を声高らかに叫ぶのは、かえってマイナスであることを救急医療を受ける方々とその御家族には知っておいていただきたい

半年ほど前、こんなことがあった。

75歳女性

ある日曜日午前の救急外来、そんな患者の娘から電話があった。かなり勢いがあるようだ。
「今から、そちらへ行ってもいいですか?入院させてほしいんです
「はい、どうぞ。入院はあくまで医師の診察の結果の判断であることはご了承ください」

私は、その日の日勤当番。朝出勤してくると、看護師よりその患者の情報を一番に聞いた。
「先生、入院希望の患者さん来るよ。今日で4回目だよ。時間外ばっかり・・・」
「ふ~ん、そりゃ手ごわそうだな」と答えた。


カルテを見てみた。
一回目受診(水):23時受診。めまい、嘔吐、下痢。
          来院時症状なし。
          救急外来で下痢と嘔吐一回ずつあり。
          頭部CTは異常なし。採血異常なし。
          レントゲン異常なし。身体所見異常なし。
          腸炎の暫定診断で、帰宅。

二回目受診(木):18時受診。嘔吐がつづく。頭痛無し。
          食欲低下あり。胃部不快感持続。 
          胃薬処方で帰宅。
          かかりつけの開業医を翌日受診指示。

三回目受診(土):13時受診。胃部不快感続く。食欲無し。
           家族の入院希望あるも帰宅。
           内視鏡検査を勧められた。
           内科の正規外来を受診するように指示。

 

う~ん・・・・。私は考えた。家族の仕事の都合なのだろうか?どうして正規の時間に受診してくれないのだろう。やることはといえば、CTの再検が必須で、そのCTの結果と後は家族の出方次第だなあと作戦を練っていた。

患者が来た。私は、他の患者でてんてこ舞いの状況だった。患者と家族の第一印象だけみて、とりあえず、作戦通りCTのオーダだけをしておいて、他の患者の対応を続けていた。

放射線技師から、電話が入った。
小脳梗塞です!」
「え!、まさか、ほんとに・・・」 
びっくりした。
そして、患者の診察順序を変更して、こちらの患者の対応を優先した。

本人の話:胃部不快感と食欲低下のみ・・・
家族の話:水曜日のめまいがでてから、
       まったく活動度が変わってしまった
本人の身体所見:小脳症状を示唆する身体所見なし

 

こりゃ、たしかに本人の話と診察だけでは、わからんわ・・と思った。やはり、家族と本人の両筋から、話を抑えておかないといけないと痛感した。

ここまでわかると、家族の入院希望云々ではなく、絶対的な緊急入院の適応であるので、即当院神経内科に緊急入院していただいた。

残念ながら、その日の夜、梗塞後出血により急変され、同日死亡された。ご冥福をお祈りします。おそらく、一日二日入院を早くできていても残念な結果という意味では同じであったかもしれない。
もし、CTを取らずに、本人の話と診察だけであれば、誰が診察しても、緊急入院適応はないと判断していたであろう。それほど、本人のみからでは重症感がなかったのだ。あるいは、その重症感のなさが地雷的といえるのかもしれない。

もし、家族の対応にカチンと来ていたら・・・・・
私も、帰宅をごり押ししていたかもしれなかった・・・・。

そしてもし、帰宅させていれば、その日のうちにCPA(心肺停止)で5回目の再来となっているところであった。とすれば、今のご時勢だ、訴訟まで進むことも十分にある。

家族の入院希望をあまり無下に扱うと、こんな地雷の踏み方をするかもしれないと思った。

教訓
家族の入院希望という医療者にとっての「負」の先入観が、緊急疾患の発見を遅らせる要因になるかもしれないので注意が必要

 コメント一覧
色々なきわどい経験をされているんですね。
私の世界とは、そのきわどさのレベルが比べものにならないくらいシビアです。
written by psq / 2007.03.29 22:52
psq様

コメントありがとうございます。
先生の世界も、私には想像ができないだけで、きっとすごくシビアなんだろうと思います。

written by なんちゃって救急医 / 2007.03.29 23:03
イヤーよくこれだけ地雷をかき分けて生存していらっしゃる。大変ですねえ。
当院も救急対応なので、産婦人科地雷が駆け込んでくることもあります。先日も3週間以上続く性器出血と1週間前からの腹痛という主訴で深夜2時来院(何でそんな時刻に。。。)。当直医からのコールで「妊娠反応陽性で、子宮内に何も見えないんですが」というので「全身状態を見て、できれば入院を」といったのに、本人拒否して帰宅。翌午後2時(だから時間外に来るなって!)婦人科病棟!に直接再来。婦人科的に診察して「ほぼ間違いなく子宮外妊娠だけど、全身状態がよいから腹腔鏡のできるところへ紹介」したら、即日入院、翌日手術でした。
 土地柄なのか、クラミジアによる子宮内感染で救急外来にかかる人も多いしねえ。
written by 山口(産婦人科) / 2007.03.30 21:10
山口(産婦人科)様

>イヤーよくこれだけ地雷をかき分けて生存していらっしゃる。大変ですねえ。

ありがとうございます。踏んでしまった事例もあるにはあるのですが、なんとかこうやって生存しております。

子宮外妊娠であ・や・う・くというケースもあります。そのうちアップしたいと思います。
written by なんちゃって救急医 / 2007.03.31 07:33
わたしのブログと同じ時期に「ピックアップブログ」となっていましたので,のぞかせていただきました.本当に怖いことがありますね.家族の入院希望というのは,おっしゃるように先入観が入ってきます.教訓にさせていただきます.
自分の勉強のために,私のブログにリンクさせていただきたいのですが,宜しいでしょうか?
written by ミチバ / 2007.03.31 20:29
ミチバ様

コメントありごとうございます。
リンク大歓迎です。
今後ともよろしくお願いします。
written by なんちゃって救急医 / 2007.03.31 20:46
世の中、似たような経験をされ、また、日々過ごされているにもかかわらず、救急をがんばっておられる先生がいらっしゃるもんだと思います。とっても心強いです。 私自身は花粉症で半病人状態ですが、花粉症なんぞに負けていられませんがんばろうという気にさせていただきました。
ありがとうございます。

もしよろしければわたしもリンクさせていただきたいのですがよろしいでしょうか?
written by た、狸が梨食ってる!! / 2007.04.01 01:35
た、狸が梨食ってる! 様

コメントありがとうございます。
大変嬉しく思いました。
もちろん、リンク大歓迎です。
written by なんちゃって救急医 / 2007.04.01 08:39
入院希望は、基本的に入院させる事の方が多いんですが。
長くなりそうな人は、ちょっと嫌なので。
ちょっとバイアスがかかっちゃいますよねー。

たいてい、今までは勘が働いてっていうか、帰しても良いけど一応入院させるか、って思って事なきを得ていますけど。
今後どうなるかわからないんで、恐ろしいですねー。
written by Dr. I / 2007.04.01 17:19
Dr I様

コメントありがとうございます。
まったく同感です。私もつい入院させたくなっちゃうほうですが、病棟の先生方の負担を考えるとそうもいかないのが現実です。
written by なんちゃって救急医 / 2007.04.01 20:38
小脳梗塞は難しい
飲酒や他の疾患にマスクされたら
かなり難しいです
痛い目にあったことあります
written by いのげ / 2007.04.03 15:31
いのげ様

コメントありがとうございます。
脳外科医ですら、難しいんですね。
ほんと、地雷としか言いようがないですね。

written by なんちゃって救急医 / 2007.04.03 18:51
この入院希望患者に対する気持ち、よくわかります。医者の気勢を削ぐような言動は、真剣勝負に水をさし診断の足を引っ張る可能性にも気づいて欲しいですね。
written by doctor-d / 2007.04.11 12:24
doctor-d様

コメントありがとうございます。同意いただけ幸いです

written by なんちゃって救急医 / 2007.04.11 16:24


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